サムライの死

osyousan2005-12-02



大衆食堂の前に書いてある今日の
日替わりランチを見たら鉄鍋のうどんとそぼろ丼。
温かそうなのでこれに決めた。
カウンターに座るとおばちゃんに「ハイ、何にしましょう?」と
聞かれる。
日替わりランチは魚と肉に分かれる。
うどんが魚か肉か忘れたので「今日の日替わりは?」と
聞き返した。
するとおばちゃんは「魚がネギトロ丼、
肉がちゃんぽんうどんとそぼろ丼です」と答えた。
「じゃあ、肉にして」と注文。


鉄鍋に入った熱々のうどんに七味唐辛子を振りかけた。
レンゲでスープを飲み、
うどんと白菜、長ネギ、人参、ジャガイモ、竹の子、
キクラゲといった野菜を箸で食べる。
薄味だが予想以上に旨い(写真小)。
そぼろ丼の味は普通。


私と同じちゃんぽんうどんを頼んでいた頭もじゃもじゃの
オバサン。「ちょっと、グラス取り替えて!」と叫んだ。
どうも麦茶が入っていたグラスが汚れていたようだ。
眼鏡をかけた田舎ねえちゃん店員が、後から来た
2人の客と一緒に3個のグラスを両手に抱えて持っていく。
お盆に入れて運べよ!と言いたい。
「すみません」も言わずにオバサンのグラスを
取り替えた。さすが場末の食堂である。


1年半前まで同じ職場で働いていた人が亡くなった。
享年66才である。
この人はサムライだった。
酒が好きで毎日アルコールの臭いをプンプンさせて
出勤した。
仕事の途中で平気で散髪に行く。
茶店でサボったのなら分からないが
床屋はすぐに行ったとわかる。
前職は不動産屋。自分一人でやっていた。
住んでいる家は競売物件を落札したもの。
奥さんは元銀座の蝶。
上司には睨まれていたが平気だった。
クビになった昨年の3月末には
2人で駅前の和食レストランで飲んだっけ。
何故か魅力のあるサムライだった。


久しぶりに「Tちゃん」に行ってみた。
もうカラオケをやっていた。
外まで声が聞こえる。
いきなりカラオケは苦手である。
テレビも見れないし話もできない。
ここは素通りした。


駅構内で大きな怒鳴り声がする。
またあの酔っぱらいオヤジである。
駅構内の柱を背にしてしゃがみ込んでいる。
そして片手には缶ビール。
「バカヤロー!そこの赤いヤツ!バカヤロー」と大声。
赤いヤツと呼ばれたのはただ通りかかった野球帽の
老人でびくついていた。

この酔っぱらいは周辺では有名。
近くの家に一人で住んでいるのだ。
3つ向こうの駅にある廃品回収場で働いているらしい。
近づいて睨んでみた。
「な、なんで見てるんだ!このヤロー!」と
こっちを向いた。
なおもジッと見ていたら「まあ、いいや」と
他の通行人に怒鳴り始めた。

怒鳴るだけで危害は加えない寂しいオヤジ。


居酒屋「M」に入る。
すると背後で私の名前を呼ぶ。
それもフルネームで..。
振り返ると三兄の高校時代からの友達Yさんだった。
Yさんとここで会うのは3回目。
同じ年輩の人達と飲んで、もう出来上がっていた。
「ママ、このお銚子の底に穴が空いてるよ」と
笑わせていた。

今日は週末なので3,4人の予約客で満杯。
頃合いをみてマスターが「おにぎりにしますか?」と
声をかけてくれた。
注文が殺到すると出てくるものも出てこないからだ。
お通しがアンキモと茄子、キムチ豆腐、中トロぶつ切り。
仕上げが小ぶりのいくらオニギリ、梅干しオニギリ。


酒、食事ともに適量で店を出る。
雨はあがったが冷たい風が吹いていた。